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なまえのある家「Rupa」


名もなき創造者たち

 

金子 亘

 

 「名前のない新聞」35周年、おめでとうございます!名もなき思いを届けて35年。本当に、ため息が出る。私も最近になって、「続ける」という作業の奥深さをようやく感じられるようになってきたように思う。ライター稼業を始めてまだ10年あまり。今まで多くの方々を取材させて頂いたが、最近、特に注目しているのは「お年寄りを含めた地元の方」だ。高齢化が進むここ柳生では、ありふれた日常の風景と言えるだろう。その光景は、一見、井戸端会議に近い。ところが、この土地でお話をお伺いしていると、拝聴を通り越して、ひれ伏したい気持ちになることすらある。
 決して威厳たっぷりというわけではない。むしろ地味で目立たず、口数は少ない。しかし、ゆっくりとした所作からにじみ出る謙虚さと信頼関係、そして、眼差しの奥に光る優しさに触れると、もうそれだけで心が満たされる。地元の方々が集うときに漂う、なんとも陽気な、微笑ましいとすら言える空気感。お腹の底までじんわり広がる温もり。
 時折、夢想することがある。今ここに、皆さんのご先祖たちも共に来られて、おしゃべりを楽しまれているのだろう、と。祖先を大切にし、農業のかたわら古の風習を継承する。何百年にもわたって続けられてきた日常生活が、底の底まで染みこんでいる土地。挨拶ひとつ交わすだけで、何か穏やかな響きが足元からも伝ってくるような気がする。
 ここにいるのは、今、目にしている相手だけではない。その人の背後に連なる、目には見えざる無数の存在に対しても、挨拶の意を伝えたくなるのだ。移住者でありながら、この山村風景を安堵の思いで眺めることができるのは、何百年にもわたって同じ景観に心休めてきた、先人たちの存在があるからなのだろう。
 ある意味、ここの里人たちは、死んでも生きている。風に揺れる梢に、石仏に生えるしっとりした苔に、薄暗い山の細道に、そして何よりも子孫たちの心のなかに。
 極言するなら、今後、私が拝聴していきたい相手は、そんな目には見えない無数の存在だ。
 その多くは生涯、無名であったことだろう。畑仕事に精を出し、お地蔵さんに祈りを捧げ、花を手向けてきた人々。遠い誰かに知られることもなく、静かに続けられてきた日常生活。大地そのものと一体化し昇華された、人々の鼓動。
 私たちの生命は、本当はこのような名もなき存在たちに支えられているのではないだろうか。地霊とも、カミサマとも呼んでもいい。それらは、崇め奉るだけの対象ではなく、日常生活を共にする親しき存在なのかもしれない。大地とつながり感謝と共に生きるならば、旅人や余所者であっても、きっとその波動を感じ取ることができるはずだ。
 日々の暮らしで感じるささやかな喜びは、決して自分一人だけのものではない。より大きな存在とともに、私たちは生きている。それこそが、幸せの本質だ。
 このことを体感させてくださった柳生の皆さんには、どう表現していいのかわからないほどに感謝している。東山中、柳生での日々は驚愕に満ちている。
 昨夏、広報にはさみこまれて、町内の地蔵盆のチラシが届けられた。疱瘡地蔵の写真の下に書かれたお知らせ文を読んだ刹那、思わず手を合わせたくなった。 素朴な民俗行事のなかに、実は壮大な宇宙観 が込められているのではないかと、常々感じる。それはまさに、今に生きる人と人の絆、過去と未来の絆を再生し、創造する行為。その直感が、いとも見事に表現されていたのだ。このような言葉で地蔵盆を知らせる土地に暮らせるとは、なんと幸せなことだろう。折々に柳生の奥深さを教えてくださる、雅号“白羅布”さんが書かれたその文章を、最後にご紹介したい。私たちは、宇宙生成にかかわっている。だから堂々と、幸せになろう。そして世界に宣言したっていい、「光あれ」と。名もなき創造者として。
「この地球のかけらは、はじめはただの岩。それが数百年の数千数万人の『祈りのあつまり』となって、風や土や水を生み私たちの営みを見守り育て上げてくれています。この村が好きだとみんなが思う。そん な集まりを、いつも のようにおこないます。豊かな自然と豊かな隣人愛に囲まれて育っていることのうれしさを、子どもたちとともに感じ取りたいと思います。みんなできてください」


アジア食堂 Rupaからのお知らせ

 奈良盆地の東、奈良、三重、京都に広がる山間部は奥大和・元大和であり、巨石に関連する聖地や縄文遺跡が数多く存在しています。このエリアにご縁を感じる方には、お話をお伺いして、関連すると感じられる地へご案内します。宿泊も可能です。お気軽に遊びに来てください。 rupa@kcn.jp  0742-94-0804


名前のない新聞 No.147=2008年3・4月号 に掲載