ビアンチェンマイ掲載の原稿

Vol.47


「パイ」には「縁が起きて縁起がいいなあ」と言わせる人の「いのち」の気が満ちていて「成り行きエネルギー」が渦巻きゆく「聖地」だ、と41号で描いたけど、確かにその強い「聖地」特有の「成り行きエネルギー」に突き動かされながら、あっ!と一年が経ってしまった。物凄い暇なのに、物凄い忙しい日々を丁寧に生きてきたら5月17日にPAI一周年を迎えてしまった。
自分の命が運ばれてゆく自分の「運命」の流れゆく音に耳を傾ければ傾けるほど、人それぞれの生き様がとてもドラマチックであって、人それぞれの「舞台」を感じてくるから不思議だな。そしてそういう「人それぞれ」の「運命」が聖地「PAI」でしてゆく。「PAI」は「運命の交差点」とも言えるのかな。誰が顧客なのは判らないにしても、この「舞台」、ボクの「舞台」は既に第五章に突入していて、この1年間で4章の「展開」大きな展開があったことになる。
「ナーム・ナッカファー」という「パイ語」を一等最初に覚えた。「水が増えてる」という意味で、これはボクの「PAI物語」第一章でのことだ。インドで2回耳にしたこの「PAI」に初めて足を踏み入れた時、ボクは泊まる所を探しながら「なんだフツーの町じゃないか」と多少批判的な思いがあって、友人から紹介されたゲストハウスも「こんなのイヤだ!」と拒絶的になってしまい、ホントに絶望的な足取りであてもなく歩いていくと、コンクリートの道路の果てに町のはずれに真新しい竹の橋がパッ!と現れて、小さな可愛い小川「パイ川」の音がし、その川向こうの山々畑々の広い風景が突如と目に入ってきたのだ。そしてその優しい山々と緑々の畑たちの中に全くその風景と溶け合ったバンガローが、まるで空気が変わってしまうように点在していて、一帯の雰囲気をかもし出していた。
ボクはその中でも一番「パイ川」に近く、一番竹の橋に近いバンガローに、住み始めた。「River View」ゲストハウス。長期滞在ということで更に「オフシーズン」だし一泊60バーツにしてもらいボクの「パイ物語」が始まりゆく。既に雨期に入っていたのか、雨と共に虹が出たり、川や畑には美しい蛍の光が、まるでUFOの様に乱舞していて、そして日々「パイ川」の水の量が変化してゆく。
ボクの朝は早い。あの夜の暗闇から少しづつ光が差し込んでくる変化の様が僕は大好きで、まだ薄暗いうちから勝手に目が覚め、早朝の太極拳を終えたボクはまず「パイ川」におり、その水で手や顔や足を清め、それから竹橋を渡って市場へ向かう。だから川の水量には物凄く敏感になってしまい、それと共にその竹橋の面倒を見ている地元の人たちの動向にも敏感になり、彼らの口から「ナーム・ナッカナー」の言葉が耳に何度も入ってくる頃には水量はもう大地に迫り竹橋にも迫ってきた。
忘れもしない8月の初めの満月の夜、雨が降ったり止んだりで満月の光も時折差し込む中で、ボクは何故だかボーッと?い始めた水流とそれに耐えゆく竹の橋を眺めていた。上流からの巨大な流木、竹橋に直撃、パーン!という一瞬の竹橋の叫び、何もなかったかのように消え去ってしまった竹橋、そして間も無く深夜の避難命令が川向こうから伝えられ、目撃者のボクが深夜の避難命令伝達係となってしまった。そしてボクの「PAI物語」第一章が終わり第二章に入りゆくのだ。
                                      「PAI」人どろんより。


とろんのことば HP表紙