ビアンチェンマイ掲載の原稿

Vol.58


パイに住み始めて一年半だけど、最初の二ヵ月半は「river view」のバンガローに居て、目の前で竹の橋がパーンと流され深夜避難したのをキッカケに「ps リバーサイド」に移って三ヶ月半いたのかな。そしてそこで出会ったアキandタカシと我がキーパーソン「陣内」の四人で焚き火を自炊を始めてゆくと次々と友達や物たちが増えてゆき、そのふくらみと共にボクの命が運ばれボクの「運命」の糸にも火がつき、出会うものには出会い、いらぬモノが落ちてゆき、あたかも何ものかにしくまれたようにボクの「pai物語」は第三章に突入してゆくのだ。
 この一年半の間にpaiは生まれたての生き物のように「あっ!!」と変化していて、ボクが二ヵ月半いた橋のそばの「ボクのバンガロー」は跡形もなくなり、今は受付と食堂に変わり果て、三ヵ月半いた「psリバーサイド」も、この間の大洪水で四つもバンガローが流され、そのうちの一つ、我がキーパーソン「陣内」のバンガロー、一番川沿いで一番デカイやつがアッ!!と一気に流されてしまったのだ。そして次々と新しい店やバンガローたちが出現していて、今年はオフシーズンなのに旅行者もけっこういて、どこまでpaiがふくらみゆくのか、とてもこわくって楽しみ、だな。
 生命あるモノはその命が尽き果てるまで限りなくふくらみゆく。人もアリも宇宙も町も。その命のふくらみを誰も止めることはできないが、そういう変わりゆく中「変わらぬモノ」もある。例えばpaiの町に住む人達の大地に根ざした「pai気質」はこの一年半の激変期にも全く不動だし、毎年訪れる洪水も虹もホタルも不変だ。何度流されてもまた竹橋を作りゆく「粘り強さ」と「マイペンライ」精神はパイ生活の基本姿勢だな。11月19日のロイカトーンではボクはその二ヵ月半住んだバンガローのすぐ前の竹橋のたもとから祈りを込めて流した。 「変わりゆくモノ」への祈りと「変わらぬモノ」への賛美を込めて。
 この12月で今の家に移って1年になる。ボクの表層意識には「定住」志向は全くなかったのに、ただ友達が増え続けモノ達が一杯になるにしたがって、何かが「飽和状態」に達し「ある日」をキッカケにあっ!!とボクは月2000バーツの一軒家、新築の家に引っ越すハメになってしまったのだ。そしてその「新居」の空間をうめゆくように、冷蔵庫、自転車、ガスコンロ、電気釜、フトンセット等を買い続け、青色の郵便箱も設えてしまった。そしてこのボクの運命的発作的な動きに感染してゆくように「陣内」も「アキandタカシ」 もそれぞれにふさわしい家を見つけ移っていったのだ。paiに旅人としてたどり着いて6ヵ月後にボクは「pai人」としてのスタートについたってわけだ。
 旅人から「pai人」になっても、ボクは相も変わらず早起きして市場前のコーヒーを飲みにゆき、午前中は阿呆のようにタイ語を続け、なにがなんだか一日中「暇だけど忙しい」日々を送っている。そして家に移って始まった「pai物語」第三章の中で、ある朝、その市場前のコーヒー屋で「私の山をタダで使っていいよ」という地元のおまわりさんが出現し、ボクの運命の糸にオレンジ色の火がついたのだ。
 この文章が活字になる頃の正月はボクは岡山、だな。二年ぶりの日本。帰国する前に僕のタイの女友達が作った「canvas cafe」でライヴ、だ。彼女の作品群をつまみにしながらシンハビアーでカンパイ!!そして1月末paiに戻ってくる。オレンジ色の火がついたボクの「pai物語」第四章を描くのがとても楽しみだな。

                 「paiとろんより」


とろんのことば HP表紙