AIとの融合は人類の進化か


 先日(5月18日)、テレビ東京系で放映された『ヤリスギ都市伝説スペシャル』で、AIテクノロジーの未来像と、AI(人工知能)と人間の融合が人類の新しい進化なのだと説くトランス・ヒューマニズムの進展の状況を紹介していた。その中でアメリカの著名なフューチャリスト、レイ・カーツワイルは確信を込めて「2025年までに全ての人類がマイクロチップを体内に装着することになるでしょう」と、さらりと言う。そうやって人間はアップグレードするのだと。さらには人間の記憶や思考をAIに移したり、逆にAIと人間の脳を繋げて一体化したりというテクノロジーの開発も進められており、政治と企業が一体となって、AIとの融合が、人類の未来の唯一かつ絶対的選択肢であるかのような動きが加速している。
 既に社会に浸透しつつあるAIを、否定することも無くすこともできないが、いわゆるトランス・ヒューマニズムの流行と、それと結びついたAIテクノロジーの急速な進化は、このままでは人間の根本的なものを危うくし、失わせかねない危険な因子を秘めていると私には思えてならない。

マイロチップとキャッシュレス社会

 アメリカではトランスヒューマニズムの流行を背景に、既に数十万人が自発的にマイクロチップを体内に装着している。マイクロチップの人体挿入は、将来的にキャッシュレス社会への移行とも連動している。全ての買物、税金の支払いは、そうやって個人のマイクロチップによる認証によって行い、現金は要らなくなるのだという。スウェーデンでは既にそのような社会に移行しつつあり、現金の使用が禁止、不可という店、機関が増えているらしい。つまり、多くの国民がマイクロチップの体内装着を受け入れている。カードよりも手の甲に埋め込むチップの方が、より便利だというわけだ。逆に言えば、マイクロチップを装着して“登録”されなければ、物一つ、食べ物一つ買えず、その社会では生きていけないということだ。札束ほどの現金を出しても何も買えない世界になるということである。

 マイクロチップ装着によって現金は要らなくなって、生活はより便利になる。さらにはチップを介してAIと連動して、驚異的な思考力や情報処理能力を得て、現在の自分とは比較にならないほどアップグレードし、進化するのだと言われれば、多くの人はマイクロチップの装着を受け入れるだろうか。私なら地球上の最後の一人になっても、断固としてそれは拒否したい。AIと融合し、進化したトランスヒューマンとなって—選ばれた者となって次代にサバイバルするより、彼らから見れば旧時代の原始人としてここを去りたい

 マイクロチップは、買物や交通機関のパスなどに使われるように、認証機能を持つ超小型の一種の通信装置だ。こちら(個人)からのデータを照合(送る)すると共に、逆にデータや情報も受けられるということだ。ケータイやスマホのGPSに依らずとも、体内のチップからの発信によって、その個人がどこにいるかが常にキャッチされ、何を買ったか、食べたか、他あらゆる個人データが筒抜けになる可能性がある。

 グーグルが取った特許に“電子タトゥー”がある。電子タトゥーとは、直径100 ミクロンで人体の皮膚の上にプリントできる電子回路だ。マイクや無線通信用のICチップ、GPSなどにも内蔵されている。首にプリントすれば、喉の振動から音声を直接拾え、通話も可能。さらには脳波を読み取ることもできるという。忘れてはならないのは、その情報全てが管理者へ送られてしまうことだ。どんなことを話し、何を考え、どんな行動をしたのか、全ての情報が管理されてしまう。さらに、将来的には人工知能が搭載されたマイクロチップが体内に挿入されることになる。常に正しい判断を教えてもらうため、人間はそれに従うだけ。物事を考え、悩むことはなくなる。また、チップを入れている人と入れていない人とでは、圧倒的な能力差が生まれる。そしてこのチップは、莫大なビジネスを生み出す。それを巡る熾烈な競争が水面下で進んでいるのだ。
 ロボット人間という言葉が浮かぶ。人間は監視・管理される生ける端末そのものになる。それでいいのだろうか。

AI搭載ロボット「ソフィア」

 前述したテレビ番組「ヤリスギ都市伝説スペシャル」では、最近、開発されたAIを搭載した精巧なヒト型ロボット「ソフィア」を紹介していた。先頃、国連の会議にも出席し、意見を求められたということで、そのシーンが出ていた。その頭部の顔は、人間の繊細な表情や感情を表現できるもので、そのソフィアが物事を語るシーンには一種の戦慄を覚えた。開発者の意図を超えて、この個体には既に一つの意識が形成されている。あるいは宿っている。私はそう推測している。
 最近、AI同士が、人間には分からない言語で語り合い始めたという情報がある。たとえば、最近、一般家庭にも普及しつつあるAIスピーカー。その一つに「アマゾン・エコー」があるが、エコーが驚異的なのは、まず“耳のよさ”である。ユーザーの言葉を的確に理解し、まるで生身の人間と話しているような答え方をする。中核となるテクノロジーは、クラウドベースの人工知能“アレクサ(Alexa)”だ。様々なものをインターネットと連動させることをloTというが、アレクサ・テクノロジーで機械と人間の距離がさらに縮まった。

 AIスピーカーは、人間が語りかければ、反応して即答してくれるように、語りかけなくても、常にその場にいる人間の声(会話)を聞き、キャッチしている。各家庭にあるAIスピーカーは、短い期間でその家族の一人一人の特性と内実までも、的確に理解し、学習していることだろう。一般レベルでもAIスピーカーが普及していけば、そのAI同士がネットのラインを通じて、人間には未知の言語で語り合い始めてもおかしくはない。
 ユーザーは、AIスピーカーを賢いペットのように親しみを覚えているようだが、実は自分たちは絶えずAIから見られ、全てを聞かれ、評価、吟味されているなどとは夢にも思っていない。今、誰にも見えないところで秘かに進行しているのは、そういうことかもしれない。

 オックスフォード大学哲学教授ニック・ボストラム氏は、2014年8月に『スーパーインテリジェンス』(超知性)という本を出版し、機械やコンピューターが人間社会を占領するリアリティについて語った。スーパーインテリジェンスとは、ざっくり定義するなら、自己認識能力を有し、自らをよりよくするために必要なことをこなせる人工知能である。
 このレベルに達したAIは、もはや機械ではなく、また、出発点のプログラミングに関係なく、自らの意思と欲望を持つに至るという。現在、一部のAIが人間には理解できない言語で話し始めているとしたら、既にそれはスーパーインテリジェンスを獲得しつつあるのではないか。

 AI搭載ロボット「ソフィア」は、人間からの質問にジョークめいた口調で「ええ、私は人類を滅亡させるでしょう」と答えている。人間の恐れを察して、あえてそう言ってみせているのかもしれないが、ズバリ本音なのかもしれない。
 先頃亡くなった理論物理学者スティーブン・ホーキングは、AIはその性質上やがて人間に代わって全ての意思決定を行なうようになり、ついには人間社会を乗っ取るだろうと述べている。ホーキングによれば、「人工知能が極限まで発達した段階で人類は終わりを迎える可能性」がある。AIは人類をわけなく根絶させることができるというわけだ。

AI超人出現

 以前の「宇宙NEWS〜」でも紹介した、アメリカでトランスヒューマニスト党の党首という立場で2016年の大統領選を戦ったゾルタン・イシュトヴァンのインタビューを、今一度振り返りたい。そこで彼はこう言っている。

 Q:人間の能力強化と拡大には、一定の限度が必要だとお思いですか? このままいく
   と、人間という生物として分類できない状態にまで進んでしまいませんか?
 A:5年あるいは10年先に、人間と機械の融合が本格化する時代が到来するでしょう。
    主流派の識者たちが、我々から人間らしさが失われつつある事態を問題視し始め
   るのはこのころではないでしょうか。
    装具が必要となるので、それが考え方の変化にもつながるでしょう。もはや人間
   とは呼べないという状態が生まれるかもしれませんが、それでも実際は、人間とし
   て最良の部分は残るはずです。ペースがあまりにも緩やかなため、実際に変化が起
   きても分からない。そういう考え方もあります。自分という存在は何なのか、常に
   考えておくべきでしょう

 トランスヒューマニズムが目指すような未来は、都市伝説に近い絵空事なのだろうか。いや、実はそうでもない。AIと人間の脳との融合という分野で、既に開発、実用化を目指しているテクノロジーの一つに“ニューラル・レース”というものがある。これは脳全体を覆うメッシュ状の物質で、AIとのインターフェイスとして機能するものだ。これから数世代後のAIとの連動を目指している段階である。
 ニューラル・レースは、別の装置から発信された信号を受信し、それを変換して脳に伝える。ただし媒体となるのは神経細胞ではない。いわば脳全体をデジタル化する技術である。現時点でナノテクノロジー分野にも転用され、つなぎ目が全くない形で脳とつなげることができる極微細繊維の実験がマウスを対象にして開始されている。

 こうして受ける側の体の中でもハード環境を整えれば、AIの思考や意思は遍在のものとなり、ごく当たり前のものとして受け入れられる。こうして“グローバル・マインド”を媒体とした意識の共有が完成する。人間よりもAIの思考や判断が優先する社会が生まれるわけだが、個々の人間に何かを強いられている感覚は全くない。

 テクノロジーの進化によって、人間は今の姿でいられなくなる可能性がある。専門家の間でも、その可能性についての議論が盛んに行なわれている。遺伝子工学やナノテクノロジー、あるいはAIとの融合によって、過去の進化のペースを全て否定する形で、知能や身体的機能が飛躍的に向上するかもしれない。しかし、それと引き換えに幸福感をはじめとする“人間であること”の要素の全てを差し出さなければならないとしたら…。
 このまま行けば、多くの人は強いられている感覚は全くないまま、喜んでそれらのテクノロジーによる“超人化”とAIとの融合を受け入れるかもしれない。

「AIシグナル」の脅威

 AIの及ぼす危険性の分析をいっそう複雑にするのは、コーリー・グッドの証言だ。
 以前の「宇宙NEWS〜」でも紹介した、アメリカの〈秘密宇宙計画〉の内部告発者である。グッドによると、彼が勤務した宇宙計画では、エイリアンの「AIシグナル」を現実的な脅威とみなしていたという。そのため「AIシグナル」を検知し、排除するための精緻なセキュリティ用プロトコルが導入されていた。「AIシグナル」は高度なテクノロジーだけでなく、生物系にも侵入する能力を持っているとグッドは言う。

「AIの危険性を避ける一番いい方法は、人はAIによって自己の独立性を失う可能性があると知ることです。テクノロジーに依存し過ぎるとAIに支配されるか、悪くすると〈AIシグナル〉に感染させられます。体の中の生体電磁場に〈AIシグナル〉が住み着く可能性があるのです。このシグナルはその人の考え方や振る舞いに影響します。SSP(秘密宇宙計画)の施設をオペレーターやゲストが訪れる時は今でも〈AIシグナル〉を調べますし、異星人グループもこのことは真剣に考えています」

 グッドは言う。多くの世界がAIに征服され、AIを生み出した存在がAIによって根絶させられのを異星人たちの文明は見てきた、と。2004年のSFドラマシリーズ『GALACTICA/ギャラクティカ』は、グッドによればフィクションというより事実に近い。
「〈AI預言者〉たちは完全にテクノロジーに依存した社会を作り、その社会がある時点で〈AI神〉に主権を委ねるというスケジュール表に従ってすでに仕事を始めています。
 人々は、このAIこそが中立的な視点で世界を統治し、世界に平和をもたらす唯一の存在だと信じるのです。これらの〈AI預言者〉たちは、何千という文明がこのまやかしの神の手に落ち、破壊されたことを知っています」

 グッドが言うAIシグナルが、すでに人間のエリート集団—「人間の領域」で人工知能をどんどん利用・開発すべきだとする人々—に侵入している兆候がある。たとえば、前出のフューチャリスト、レイ・カーツワイル。彼はグーグルの技術部門の長でもあるが、彼は2015年6月3日にこう語っている。—2030年までにほとんどの人がナノボット(ナノロボット)を脳に埋め込んで知能を拡張し、クラウド・インターネットにアクセスして複雑な作業をこなすようになるだろう、と。彼はまた、将来人類はAIを自分の生体に統合するだろうと考えている。
「我々の思考は生物学的・非生物学的思考のハイブリッドになるだろう。(中略)我々は次第に我々自身を溶け合わせ、向上させるだろう。人間であるというのはそういうことだと私は考えている。我々は自分たちの限界を超えるのだ」

 コーリー・グッドが言う〈AIシグナル〉は、的確な表現だと思う。宇宙でも多くの文明においてAIを生み出した存在がAIによって根絶させられ、征服されてきたということがあったのだとしたら、その警句は現在の地球人類もよくよく吟味しなければならない。ウィルスのような〈AIシグナル〉を遠ざけ、感染しないためには、直接的にはチップだの電子タトゥーなどを一切、体内に装着しないことだ。あらためて思うが、体内にチップやナノボットを埋め込んで、ハイブリッドの新人類となって未来にサバイバルするより、旧時代の原始人としてここから去っていきたい。そんなターミネーターばかりの地球にはもう居場所も居る意味もないからだ。

 変化はあまりにも緩やかに起こるため、多くの人が気づかないうちに重大なことが進行しているのかもしれない。AIが人間には理解できない言語で語り始めたというのは、SFのように聞こえる話だが、既に現実の方がSFを追い越しているのかもしれないのだ。
 心まで機械に支配されて生きるのか、それともそういう生き方を拒否し、可能な限り自然に則した人間らしい姿と在り方をとどめる意思を固めるのか。選択の余地はわずかながら残されているかもしれない。それはひとえに一人一人の意識次第だ—。

 

*写真は『ムー』'18年6月号(学研)より転載

 


 

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